能登島

ISHIKAWA

自然と人が共存する島
暮らしを紡ぐ
「まあそい」旅

石川県の能登半島の内海に位置する人口わずか約3000人の小さな島・能登島。日本海に位置しながらも荒波の影響を受けない地形により、豊かな自然の恵みを受けたこの島は、漁業と農業の両方を営む半農半漁村の暮らしをしてきました。

能登島の方言「まあそい」とは「豊かな・よく成長した・よく実っている」という意味。1982年に能登島大橋が開通までは自給自足中心の島でしたが、人々は季節ごとに収穫される海の幸や山の幸により、豊かな生活を送ってきました。さらに「能登の里山里海」が2011年に国内初の「世界農業遺産(GIAHS)」に認定されたことで、より一層、注目度が上がっています。

そこで今回は、ゆったりとした時間が流れる能登島で、島の人々が心安らぐおもてなしをしてくれる“スローツーリズム”をご紹介します。

能登島の地形や
風土がもたらした豊かさ

  • 海沿いの道を車で走ると、
    陽の光に輝く海と水田が隣り合った
    絶景が楽しめる

    能登半島の内海・七尾湾に浮かぶ能登島では、山の上にある1つの集落を除く20の集落がすべて海に面していて、地の利を活かした水産業が盛んです。

    七尾湾は、三方を陸に囲まれているため、波が穏やかな海域にあります。そのため、プランクトンが繁殖しやすく、それを食べる海藻やカキ、サザエなどの海産物が豊富に育ちます。そしてまた、年間を通じて色々な種類の魚が水揚げされています。

    内浦に面しているため、気候が穏やかな能登島。冬でも豪雪にならないことから、四季折々にさまざまな農作物が収穫されています。海を眺めるなだらかな丘陵地には水田や畑が広がり、風光明媚な景色に心が洗われるよう。近年は能登米や 、 赤土 ジャガイモ などの能登野菜を手掛け、食材の宝庫としての「里山」を打ち出しています。

    また、能登島の夜景も、お楽しみのひとつ。街灯が少ないため星空が美しく、天の川もくっきりと浮かび上がります。夏(6月下旬~9月下旬)は、海のウミホタルと、陸のホタルとの2つのホタルと星空の共演という、自然のイルミネーションが堪能できます。秋は満月の月明かりが神秘的で、冬には澄み切った冬空に満天の星が降り注ぎ、自然界のプラネタリウムを堪能できます。

海の恵みを受けて
発展した特有の海産物

  • 「鰀目(えのめ)漁港」には
    ウミネコたちも
    魚を目当てにやってくる

    能登島の東側にあり、暖流と寒流が交錯する「鰀目(えのめ)魚港」では、回遊魚をはじめ、湾内に生息する近海魚や海藻などさまざまな種類の魚介類が水揚げされます。ちなみに「鰀目」という地名は、昔怪物となった「エイ」が漁船を襲った時、岳宮の神がそのエイの目を弓で射って退治したことに由来しています。能登島には、このような地名にまつわる民話がいくつか残っています。
  • 七尾湾の漁港の中でも東側に
    位置する「鰀目(えのめ)漁港」。

    七尾湾で毎日水揚げされる
    季節の魚
    春から夏にかけては、アジ、タイ、サワラ、サバ、秋はカマス、アオリイカ、フクラギ、ブリ、冬はタラ、スルメイカなどが揚がります。特に冬のブリは身が締まっていておいしいとされ、「七尾の寒ブリ」として全国的にも知られています。カキの養殖も盛んで、とれたてのカキを網焼きにしていただく、焼きガキも絶品です。民宿やレストランの方々も買い付けに来ている「鰀目漁港」。水揚げされたばかりの魚は、一般の人にも量り売りで購入可能なので立ち寄ってみてはいかがでしょうか。家の食卓から飲食店、民宿にいたるまで、常に新鮮な魚介類を味わえるのが、能登島での特権といえます。
  • 鰀目(えのめ)漁港
    【住所】石川県七尾市能登島鰀目
  • 民宿やレストランで、新鮮な海藻を
    気軽に味わうことができる

    プランクトン豊富な
    海で育った海藻類
    里山からつながった里海では、“自然のサプリメント”とも言われているミネラル豊富な海藻が、現在分かっているものだけで200種類も生息しています。

    海藻は、緑色の緑藻(アオサ)、茶色の褐藻(ギバサ)、ところてんの材料でもおなじみである赤色の紅藻(マクサ)と大きく3種類に分けられます。食べ比べてみると、それぞれに味や食感などが異なるのが分かります。
    毎日の食卓にのぼるのはもちろん、レストランや民宿ではいろいろとアレンジされて登場します。
  • 塩作りが行われている
    長崎の小屋の前の海岸では、
    タコツボでタコが捕れる

    古代から現代へ、
    伝統が受け継がれてきた
    塩作り
    能登島の長崎町では、古代よりさまざまな製法の塩作りが行われてきたという歴史があります。たとえば土器で海水を煮沸する「製塩土器」から、近代まで行われていた「揚浜式製法」、そして終戦後まもなく、中山武男さんによって始められた、鉄製の窯で造る独自の製法へと移り変わってきました。

    以降、昭和20年代に、塩作りは一度途絶えてしまったそうですが、その歴史を絶やしたくないと立ち上がった源内伸秀さんたちや地元の人々が、平成22年より中山氏から塩作りのノウハウを聞き込み、小屋を立てて塩作りの実験を行っていきました。今では地元ボランティアの協力を経て、小屋で作られた希少な海塩が「能登島まあそいの塩」として製品化され、道の駅などで販売されています。海塩は通常のものよりも少し甘みがあり、味わい深いが特徴。また、「のと島クラシノサイクル」という、自転車で能登島を巡るサイクリングツアーの立ち寄りスポットにもなっていて、小屋を見学することもできます。
  • 塩作りについてレクチャー
    してくれた源内伸秀さん。
    定期的に塩作り体験ができる
    イベントも開催

    以降、昭和20年代に、塩作りは一度途絶えてしまったそうですが、その歴史を絶やしたくないと立ち上がった源内伸秀さんたちや地元の人々が、平成22年より中山氏から塩作りのノウハウを聞き込み、小屋を立てて塩作りの実験を行っていきました。
  • 「のと島クラシノサイクル」の
    サイクリングツアーに参加すると、
    能登島の自然や文化に触れられる

    今では地元ボランティアの協力を経て、小屋で作られた希少な海塩が「能登島まあそいの塩」として製品化され、道の駅などで販売されています。海塩は通常のものよりも少し甘みがあり、味わい深いが特徴。また、「のと島クラシノサイクル」という、自転車で能登島を巡るサイクリングツアーの立ち寄りスポットにもなっていて、小屋を見学することもできます。

里の恵みから稲作や
野菜作りが発展

能登島を歩いてみると、広大な田園がどこまでも広がり、さまざまな畑で野菜や果物が作られていて、まさに里の恵みを実感させられます。特に、海を望む水田の景色は情緒があり、田植えの時期や、稲がたわわに実った収穫時期は、青空とのコントラストの美しさに息を飲みます。

また、農園によっては、地元の民宿や飲食店に提供するほか、都会の飲食店の要望に応えて個性豊かな品種を供給しています。それらの農園では、視野を広げ、需要に応じて作物をつくるという、“農業の今”が感じられます。

  • 秋に訪れると、稲穂が
    たわわに実った
    田園風景が広がっている

    民宿やレストランで
    味わえる能登米
    能登米は、さまざまな規定をクリアした能登産のコシヒカリです。化学肥料や農薬の成分を通常のものより3割以上削減した「エコ栽培」が義務付けられているほか、機械除草や農業機械のアイドリングストップ、かかしの設置、田んぼ内の生きもの調査なども積極的に行っています。
    こうして作られた能登米は、島の人々の食卓に並ぶほか、地元の飲食店や民宿でも提供され、多くの人々に愛されています。
  • 能登島産特別栽培酒米を
    100%使用した清酒「能登島」
    1800mlが3,030円(税込)、
    720ml が1,950円(税込)

    島の若者が企画した
    能登米を
    使った
    日本酒プロジェクト
    年々過疎化が進む能登島の農業を盛り上げようと、島に住む若者の有志たちと生産者たちと手を取り合って挑んだのが、能登米を使って地酒を作るという日本酒プロジェクトです。

    共に手を組み、特別栽培の酒米作りからスタート。その後試行錯誤を重ね、ようやく完成したのが地酒「能登島」です。そこには能登島の耕作放棄地を減らし、少しでも島の農業を盛り上げようという熱い郷土愛がありました。

    まさにこの「能登島」は若者、生産者、酒蔵、書家、デザイナーなど、能登島を思う人たちの情熱が生み出した地酒です。実際、1升瓶1本分がたたみ2畳分の田んぼの維持費に値し、地酒を作ることで、地元の農業に貢献しています。
  • 道の駅 のとじま
    【住所】石川県七尾市能登島向田町122-14
    【電話】0767-84-0225
    【営業】交流市場・売店 9:00~17:00(内レストランラストオーダー 16:30)
    【休館日】12/29~1/1 12/1~3/20までの毎週木曜定休
  • 能登島の自然農法に惚れ込み、
    夫婦で高農園を営んでいる
    高利充さん

    赤土の大地で育つ
    栄養たっぷりの能登野菜
    能登島のミネラル豊富な赤土を使って、四季折々の美味しい野菜を作っている「高農園」。この農園を営む高さんは金沢出身ですが、能登島を訪れて自然農園の面白さを知ってから、一心発起して会社員を辞め、能登島で農業を営むために移住してきたそうです。

    もともと食べることが大好きだったという高さん。農業への情熱はひとしおでしたが、「最初は思ったように作物が作れなかった時期もありました」と言います。「そういう時期を経て、自ら改良を重ねて粘り強くトライしていきました」。
  • ナス1つ取っても、米ナス、
    棒ナス、縞ナスなど、
    いろんな種類のナスが
    栽培されている

    いまでは県のエコ農家に指定され、全農場が有機認証を取得。「首都圏をはじめ、全国の有名レストランと提携し、珍しい品種の野菜を少量生産で作っています」と高さん。11月はカブや大根、ブロッコリー、カリフラワー、キクイモ、サツマイモなどが収穫されます。

    著名な高級レストランのシェフ自らが農園を訪れ、高さんに直接欲しい野菜をリクエストすることも多いそうです。今は一年を通して300種類もの野菜が作られ、南は鹿児島から北は北海道まで、日本各国の料理人から愛される農園となりました。
  • 高農園
    【住所】石川県七尾市能登島百万石町27番3号
    【電話】0767-85-2678

「まあそい」な
食文化を引き継ぐ
「まあそい」な人たち

  • 能登島のランドマークでもある
    能登島大橋

    今や能登島のシンボルにもなっている能登島大橋は、石川県七尾市の和倉温泉地区と能登島地区を結ぶルートとして、1982年に架けられました。

    能登島の街には白壁・黒瓦の家並みや、水田や畑が広がっていて、日本の良き原風景が今も残っています。また、農林漁業と結びついた祭礼もたくさんあり、秋祭りの時に味わう「祭りごっつぉ」の伝統は、今でも各家庭で受け継がれています。

    そんな能登島に住み、古来より伝わる食文化を伝えているのは、地元出身者の人々だけではありません。旅人として能登島を訪れ、自然豊かな島の風景や、一年中海や山の幸に恵まれた暮らしぶりに魅了されて移住してきた人々も数多くいます。
  • 窓辺にあるグリーンのハンモックで
    海を見ながら
    ゆったりとした時間を楽しんで

    おすそわけが能登島の
    人々のコミュニケーション
    能登島には心温まるおもてなしをしてくれる民宿が約30軒あります。七尾湾を目の前に臨む「ゲストハウス葉波」では、縁側にハンモックが置かれ、穏やかな海を見ながら心地良くうたた寝……、という贅沢な時間を過ごせそうな宿泊施設です。

    ここのオーナーの福嶋葉子さんは、石川県の金沢出身の、元バックパッカー。ワーキングホリデーでニュージーランドに住んだり、スイスで夏のハイキングガイドを務めたりと、世界40カ国を旅行した後、能登島に落ち着きました。現在は能登島の魅力を広めようと「能登島地域づくり協議会」の事務局員も務めています。
  • 左から
    「葉波」オーナー福嶋葉子さん、
    能登デザイン室の田口千重さん、
    石川県農林水産部の瀬川徳子さん

    「おすそわけが能登島の人々のコミュニケーションです」と語る福嶋さん。「能登島の人々は半農半漁の家が多いので、魚介類や農作物をおすそわけし合い、人と人とが顔を見てふれ合い、おもてなしをするという古き良き日本文化が息づいています」。

    「葉波」は一泊朝食付き(もしくは素泊まり)のゲストハウスですが、自由に使えるキッチンがあり、近所の飲食店も紹介してもらうことができます。また、福嶋さんから、能登島の最新情報なども教えてもらうことができるのも魅力です。窓から望む景色が美しく、本や漫画が並ぶ本棚もあり、居心地が抜群なので、ふらりと訪れる旅行客や、2~3週間長期滞在する人が多いのも頷けます。
  • 能登島ゲストハウス 葉波
    【住所】石川県七尾市能登島向田町128-81-2
    【電話】050-5242-4911
    【費用】宿泊・1泊朝食:4,500円〜(税抜)
    素泊まり:3,500円〜(税抜)
  • 仲良し夫婦のシェフの
    長竹俊雄さん(左)と、
    ソムリエの幸子さん(右)

    里山里海を守りながら
    地元の食材でもてなしたい
    能登島の美味しい魚介類や米、野菜の可能性を最大限に引き出してくれるのが、島の最北端「祖母ヶ浦町(ばがうらまち)」に位置するレストラン兼オーベルジ「能登島Sans-souci サンスーシィ」です。心からのおもてなしをしたいという思いから、予約は1日1組限定。通常営業は、週末のランチのみですが、1度訪問した人が遠くから訪れるなど、高いリピーター率を誇る人気店となっています。

    山形で生まれ、栃木育ちであるシェフの長竹俊雄さんと、東京生まれ東京育ちでソムリエの幸子さんのご夫婦は、元々、赤坂でフランス料理店を営んでいました。素材にこだわる長竹シェフが、自分で収穫した素材を使った自給自足型のレストランを開業したいと思い、新天地を探して全国を回り歩きました。そうして行き着いたのが、能登島でした。なによりも能登島の風土や食材に惹かれ、2013年に移住。その後、お店をオープンさせました。

    ひまわりのように明るい笑顔を絶やさない幸子さんは、接客以外にも無農薬の「幻の島米」作りに参加したり、海藻ワークショップを開催したりと、地域に根ざした店作りをされています。
  • 自ら仕入れた食材の
    コンディションに合わせ、
    最高の一品に仕上げてくれる
    長竹シェフ

    長竹シェフは食材へのこだわりから、漁業権を取得。自ら素潜りでサザエを捕り、早朝から市場へ赴き、その目利きで最高の魚介類を買い付けて調理を行います。

    この日、まず「島のお通し」として登場したのは、「シェフ素潜りサザエのラグー」。サザエの旨味が濃縮された一品で、この後に続く料理への期待感を高めます。

    オードブルは、仕入れた魚介類をシンプルにそのままカットしたり、マリネしたり、炙ったりと、素材の持ち味を最大限に活かして調理され、見た目も美しいサラダ仕立てにして提供します。
  • コースの中の一品 
    「初秋スズキのワイン蒸し、
    小坂レンコンの海藻入りタッファン、
    無農薬の幻の島米ピラフ添え」

    特筆すべきは、海藻を取り入れたエスプリの漂うメニューの数々です。たとえば、もちもちしたレンコン団子に、サクサクした海藻を練り込んで香ばしく焼き上げ、ピラフにトッピングするという意外性のある一品もお目見え。スズキのワイン蒸しのやわらかい触感との違いも楽しめる、長竹シェフならではの技ありメニューです。
  • コースの中の一品 
    「鰀目魚港で捕れた鮮魚、
    真鯛と炙り秋カマス、
    島アジ、アオリイカの
    サラダ仕立て」

    冬はタラ、カニ、ブリ、エビなどの魚介類や旬の野菜、海藻類が、長竹シェフの手によってスペシャルな一皿として登場します(ディナーコースは5,000円~/税抜)。その時期の料理に地酒やワインを合わせることで、ここでしかできない新たな食体験ができるはずです。

    のどかな里山里海で育まれた豊富な食材を、新鮮なうちに堪能できる能登島の暮らし。地形が生んだ恵みが島の人々の生活を作り、互いに支え合っていくことで、よりよい未来へ伝統が受け継がれていく気がします。都会の喧騒から離れ、タイムスリップしたかのように、穏やかに流れる時間を体験しに行きませんか。
  • 能登島 
    Sans-souci サンスーシィ
    【住所】石川県七尾市能登島祖母ケ浦町5-7
    【電話】090-7429-4581(直通)
    【費用】ディナー5,000円~、週末ランチ2,500円
    夕食・朝食つきの宿泊プラン15,000円~
    いずれも要予約 ※料金はすべて税抜